慰謝料請求が認められなかった事例

故意・過失が認められなかった事例

不倫慰謝料に強い弁護士
不倫慰謝料の請求をされたら

 

慰謝料請求が認められるためには、交際相手が既婚者であると認識していたか、この点について故意・過失があったかという点が問題になります。

故意とは、簡単に言うと既婚者であることを知っていてあえて関係を持ったような場合です。

過失とは、知ることができたにもかかわらず、よく確認もしないで関係を持ってしまったような場合です。

本来は故意・過失の立証責任は請求する側にあるのですが、実際に訴訟になった場合には請求する側である原告の主張は簡単に認められてしまう傾向にあり、故意・過失がなかったという点については被告が反論しなければいけないケースがほとんどとなります。

関係は持ったものの慰謝料が認められなかった裁判例としては、以下のようなものがあります。

 

東京地方裁判所 平成29年10月12日判決

19歳の男性に対する慰謝料請求につき、知り合った経緯や交際期間、交際態様、被告の年齢・社会経験などに照らし、交際相手が未婚であるかを調査すべき義務があったということはできず、被告の不法行為責任は認められないと判断された事例。

 

東京地方裁判所 平成28年2月17日判決

元ホストの妻から元AV女優の女性に対する不貞行為に基づく慰謝料請求につき、交際に至った経緯や交際状況等から被告には妻の権利を侵害する認識(故意)を有していたとは認められず、非難されるべき落ち度(過失)があったとまでは認め難いとして、被告に不法行為が成立することはないと判断され請求が棄却された事例。

 

東京地方裁判所 平成29年12月13日判決

原告が婚姻する3年以上前に原告の夫Aと知り合って交際を開始した被告は、Aとの婚姻に向けた具体的な行動を取っていることなどもあり、Aが婚姻したことを認識し得る何らかの端緒があったとは証拠上認められないなどとし、被告においてAが既婚者であったことを認識していたとは認められず、認識し得なかったことにつき過失があったとも認められないとして、不貞行為を理由として不法行為責任を負わないとして、原告の請求を棄却した事例。

なお、被告は原告が一方的な内容の手紙を投函したりした行為が違法であるとして慰謝料請求し反訴しているが、こちらも社会的相当性を逸脱したとは言えないなどとして棄却されている。

 

不倫慰謝料の請求が信義則に反し権利の濫用として許されなかった事例

不倫慰謝料に強い弁護士
不倫慰謝料の請求をされたら

自分自身も不貞行為をしているにもかかわらず、配偶者あるいは元配偶者の不貞相手について慰謝料請求をすることはできるのでしょうか。

裁判例では「自ら不貞行為をし、その後も背信行為を継続していながら、他方において、相手方らの不貞行為については、これを自己に対する法益侵害として損害賠償を求めることは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。」などと判断されています(東京地方裁判所平成18年2月14日判決)。

夫婦間の未成年の子からの慰謝料請求が認められなかった事例

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不倫慰謝料の請求をされたら

夫婦の一方と肉体関係を持ち同棲するに至った第三者は,夫婦間の未成年の子に対しても不法行為責任を負うことになるのでしょうか。

この点については、最高裁において判決が出されています。

(最高裁判所昭和54年3月30日)

 

同判決によると、「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子のもとを去った右男性と同棲するに至った結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなったとしても,その女性が害意をもって父親の子に対する看護などを積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判断されており、第三者は未成年の子に対して不法行為責任は負わず、慰謝料の支払義務はないこととされています。

 

もっとも、一方の配偶者に対しては同判決においても、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫または妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである」と判断されています。

婚姻関係が既に破綻していた場合には不法行為責任を負わないとした最高裁判例

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平成8年3月26日の最高裁判決では、以下の判決が出されました。

 

「原告(妻)の配偶者(夫)と第三者(被告)が肉体関係を持った場合において、原告と夫との婚姻関係がその当時すでに破綻していた時は、特段の事情のない限り、被告は原告に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、被告が夫と肉体関係を持つことが原告に対する不法行為となるのは、それが原告の婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、原告と夫との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、原告にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとは言えないからである。」

 

上記の最高裁判例は、現在の不倫慰謝料請求(不貞行為慰謝料請求)訴訟においては常識といえるほどになっていますが、婚姻関係の破綻が認められるにはハードルがかなり高く、破綻が認定されるケースは非常に少ないと言えます。

もっとも、婚姻関係が破綻していなかったとしても婚姻関係がうまくいっていなかった場合には慰謝料の減額要素として考慮されます。

 

 

実質的に賠償を求めるに価する損害が発生していないとされた事例

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不倫慰謝料請求をされたら

不倫をされた夫もしくは妻には、かならず損害賠償(慰謝料)請求ができるだけの精神的損害が発生するのでしょうか。

 

妻(原告)から夫と不貞関係に至った女性(被告)に対する慰謝料請求につき、賠償を求めるに価する損害が発生していないとして、原告の請求を棄却した事例があります(山形地方裁判所昭和45年1月29日判決)。

この事例では、不貞関係露見後も妻と夫との間に不貞を原因としてけんか、口論、その他格別の軋轢が無く、夫婦の仲に不和が醸成されず、円満な夫婦関係を維持し、妻その子も夫の不貞を一過性のものと評価して夫を宥恕していた(許していた)などという事情から、「原告(妻)は、被告と訴外夫間の肉体関係により、客観的には、一応その有する権利を侵害されたが、実質的には、それにより賠償を求めるに価する損害が発生していないものと認めるのが相当」であると判断されました。

 

上記はやや古い裁判例であり、現在の裁判例の流れでは婚姻中の配偶者が他の者と肉体関係を持った場合には、婚姻関係が破綻していない限りは他方配偶者には一般的に精神的損害が発生することを前提とされていますので、上記裁判例と同様の主張をしても裁判上認められる可能性は低いかとは思われますが、あくまで一例として紹介させていただきます。

 

配偶者からの十分な慰謝料の支払がなされていると認められた事例

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すでに配偶者が相手方に対して慰謝料を支払っている場合でも、不倫相手はさらに慰謝料を支払わなければならないのでしょうか。

 

夫(原告)から妻と不貞関係に至った男性(被告)に対する慰謝料請求につき、すでに妻から原告に対し300万円の慰謝料が支払われているとして、原告からの慰謝料800万円の請求を棄却した事例があります(東京地方裁判所平成20年3月11日判決)。

 

不倫の慰謝料債務については連帯債務となりますが、同種の事例でも配偶者から不倫をされた側に支払われた金員の性質が不倫慰謝料かどうかということで争いになることがあります。

将来の紛争を回避するためにも、配偶者間での解決を目指す際には不倫慰謝料であることを明示してから支払うことが必要です。